ステルスライフ

あの日僕も死んだ

特売/うまい話を逃しても

榛原にはストレス耐性がない。坦々と生きようと提唱するのは、坦々と生きられないからである。普通の人間なら触れたとも思わないなにかとの接触で大怪我をする。理性では呆れていても、びっくりするほどくだらない出来事で動揺する。
例えば。


特売を逃すと、おそろしく損をした気持ちになる。うつうつとする。

特売商品を買えなかったとは、該当商品を買わなかっただけの話で、実際には別段なんの損もしていない。

それ以外に目当てがない状態で買い物に行ったなら、移動の時間と労力と、がっかり分の気力は確かに損したが、実際に買った物の価値が下がった訳ではない。そもそもまだ買ってない。なのに、目当ての物を買い逃した自分は駄目人間だと感じ、みじめな気持ちになる。阿呆である。

例えば今日、特売の箱売りを買いに行ったが、午前中のみのタイムセールだったことに気づかず、店にたどり着いた時にはいつもの値段に戻っていて、結局買わずに済ませた。通常より一個30円安く、六個入りなら200円近く安かった計算になる。これを、200円損したー!と感じてしまう。買い逃した額は大きい。……実際には、商品に触れもしなかったのに。
あるいは、特売に負けて無駄に買い込まないように控えめに買ったのに、せっかく安いのだから、もっと買っておけばよかったどうせまた買うのに次買うときはもう高いなどと延々と落ち込んだりする。下手すれば、交通費をかけて買い足しに行ったり。とことん阿呆である。

特売に出くわす度に、こんな調子でいちいち振り回されるのに疲れて、ステルスライフなりのやり過ごし方を編み出した。

秘訣は、【損を見ず、得を見よ】である。すなわち、たまたま買った物が割安だったら、得したなーと思ってほくほくする。買えなかったことを損したと考えない。得しなかったことは得じゃないのだから、なかったことである。

これをぐだぐだ考えていた時、人は、得することより、損しないことを重視する生き物なのだと聞いた。実験した人がいるそうな。なんだ、損するのが辛いのは自分だけじゃないんじゃん、とちょっと笑った。損よりも、得を見よう。(独力でここまで辿り着いたんだから、大したもんだと自分を誉めてみることにする)

うつ予備軍な方なら頷いてくださるかもしれないが、榛原は事前に(事後も)シミュレーションをしすぎるきらいがある。特売のチラシをチェックして、買い物リストを作って、店にたどり着く前から、頭の中では、既に特売で得をしている訳である。既にした得がなくなったから、損をしたように感じる訳だ。(悪趣味にも、もう買えないものを買えたらどうだっただろうとまでシミュレーションして、倍、自分を傷つけたりもする。これについては、また今度)

これを応用すれば、なんらかのオイシイ話もそうだ。それを逃したとしても、損をした訳じゃない。得しなかっただけのことだ。次のお得がやってくるまで、淡々とやり過ごすことをお勧めする。